原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
---|---|---|
爾其后。 | ここにその后、 | しかるに皇后は |
豫知其情。 |
あらかじめ その御心を知りたまひて、 |
あらかじめ 天皇の御心の程をお知りになつて、 |
悉剃其髮。 | 悉にその髮を剃りて、 | 悉く髮をお剃りになり、 |
以髮覆其頭。 | その髮もちてその頭を覆ひ、 | その髮でお頭を覆おおい、 |
亦腐玉緒。 | また玉の緒を腐くたして、 | また玉の緒を腐らせて |
三重纒手。 | 御手に三重纏まかし、 | 御手に三重お纏きになり、 |
且以酒腐御衣。 | また酒もちて御衣みけしを腐して、 | また酒でお召物を腐らせて、 |
如全衣服。 |
全き衣みそのごと 服けせり。 |
完全なお召物のようにして 著ておいでになりました。 |
如此設備而。 | かく設け備へて、 | かように準備をして |
抱其御子。 | その御子を抱うだきて、 | 御子をお抱きになつて |
刺出城外。 | 城の外にさし出でたまひき。 | 城の外にお出になりました。 |
爾其力士等。 | ここにその力士ちからびとども、 | そこで力士たちが |
取其御子。 | その御子を取りまつりて、 | その御子をお取り申し上げて、 |
即握其御祖。 |
すなはちその御祖みおやを 握とりまつらむとす。 |
その母君をも お取り申そうとして、 |
爾。 | ここに | |
握其御髮者。 | その御髮を握とれば、 | 御髮を取れば |
御髮自落。 | 御髮おのづから落ち、 | 御髮がぬけ落ち、 |
握其御手者。 | その御手を握とれば、 | 御手を握れば |
玉緒且絶。 | 玉の緒また絶え、 | 玉の緒が絶え、 |
握其御衣者。 | その御衣みけしを握とれば、 | お召物を握れば |
御衣便破。 | 御衣すなはち破れつ。 | お召物が破れました。 |
是以 取獲其御子。 |
ここを以ちて その御子を取り獲て、 |
こういう次第で 御子を取ることはできましたが、 |
不得其御祖。 |
その御祖おやをば えとりまつらざりき。 |
母君を 取ることができませんでした。 |