原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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志都歌①②ゆゆしき歌 |
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於是。 天皇大驚曰 |
ここに 天皇、いたく驚かして、 |
そこで 天皇が非常にお驚きになつて、 |
吾 既忘先事。 |
「吾は 既に先の事を忘れたり。 |
「わたしは とくに先の事を忘れてしまつた。 |
然汝守志 待命。 |
然れども汝いまし志を守り 命を待ちて、 |
それだのにお前が志を變えずに 命令を待つて、 |
徒過盛年。 | 徒に盛の年を過ぐししこと、 | むだに盛んな年を過したことは |
是甚愛悲。 |
これいと愛悲かなし」 とのりたまひて、 |
氣の毒だ」 と仰せられて、 |
心裏欲婚。 |
御心のうちに召さむと 欲おもほせども、 |
お召しになりたくは お思いになりましたけれども、 |
憚其極老。 |
そのいたく老いぬるを 悼みたまひて、 |
非常に年寄つているのを おくやみになつて、 |
不得 成婚而。 |
え召さずて、 | お召しになり得ずに |
賜御歌。 | 御歌を賜ひき。 | 歌をくださいました。 |
其歌曰。 | その御歌、 | その御歌は、 |
美母呂能 | 御諸みもろの | 御諸みもろ山の |
伊都加斯賀母登 | 嚴白檮いつかしがもと、 | 御神木のカシの樹のもと、 |
賀斯賀母登 | 白檮かしがもと | そのカシのもとのように |
由由斯伎加母 | ゆゆしきかも。 | 憚られるなあ、 |
加志波良袁登賣 | 白檮原かしはら孃子をとめ。 | カシ原はらのお孃さん。 |
又歌曰。 | また歌よみしたまひしく、 | またお歌いになりました御歌は、 |
比氣多能 | 引田ひけたの | 引田ひけたの |
和加久流須婆良 | 若栗栖原くるすばら、 | 若い栗の木の原のように |
和加久閇爾 | 若くへに | 若いうちに |
韋泥弖麻斯母能 | 率寢ゐねてましもの。 | 結婚したらよかつた。 |
淤伊爾祁流加母 | 老いにけるかも。 | 年を取つてしまつたなあ。 |
志都歌③④クサカエの歌(盛りを返せ) |
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爾赤猪子之 泣涙。 |
ここに赤猪子が 泣く涙、 |
かくて赤猪子の 泣く涙に、 |
悉濕。 其所服之 丹摺袖。 |
その服けせる 丹摺にすりの袖を 悉ことごとに濕らしつ。 |
著ておりました 赤く染めた袖が すつかり濡れました。 |
答其大御歌 而歌曰。 |
その大御歌に答へて 曰ひしく、 |
そうして天皇の御歌にお答え 申し上げた歌、 |
美母呂爾 | 御諸に | 御諸山に |
都久夜多麻加岐 | 築つくや玉垣たまかき、 | 玉垣を築いて、 |
都岐阿麻斯 | 築つきあまし | 築き殘して |
多爾加母余良牟 | 誰たにかも依らむ。 | 誰に頼みましよう。 |
加微能美夜比登 | 神の宮人。 | お社の神主さん。 |
又歌曰。 | また歌ひて曰ひしく、 | また歌いました歌、 |
久佐迦延能 | 日下江くさかえの | 日下江くさかえの |
伊理延能波知須 | 入江の蓮はちす、 | 入江に蓮はすが生えています。 |
波那婆知須 | 花蓮はなばちす | その蓮の花のような |
微能佐加理毘登 | 身の盛人、 | 若盛りの方は |
登母志岐呂加母 | ともしきろかも。 | うらやましいことでございます。 |
老いた盛りを追い返す |
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爾 多祿給 其老女以。 |
ここに その老女おみなに 物多さはに給ひて、 |
そこで その老女に 物を澤山に賜わつて、 |
返遣也。 | 返し遣りたまひき。 | お歸しになりました。 |
故此四歌。 | かれこの四歌は | この四首の歌は |
志都歌也。 | 志都歌なり。 | 靜歌しずうたです。 |