原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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堅魚=魚虎・しゃちほこ |
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初大后。 | 初め大后、 | 初め皇后樣が |
坐日下之時。 | 日下にいましける時、 |
河内の 日下くさかにおいでになつた時に、 |
自日下之 直越道。 |
日下の 直越ただこえの道より、 |
天皇が日下の 直越ただごえの道を通つて |
幸行河内。 | 河内に出いでましき。 | 河内においでになりました。 |
爾登山上。 | ここに山の上に登りまして、 | 依つて山の上にお登りになつて |
望國内者。 | 國内を見放さけたまひしかば、 | 國内を御覽になりますと、 |
有上堅魚。 作舍屋之家。 |
堅魚かつをを上げて 舍屋やを作れる家あり。 |
屋根の上に高く飾り木をあげて 作つた家があります。 |
天皇。 令問其家云。 |
天皇 その家を問はしめたまひしく、 |
天皇が、 お尋ねになりますには |
其上堅魚 作舍者。誰家。 |
「その堅魚かつをを上げて 作れる舍は、誰が家ぞ」 と問ひたまひしかば、 |
「あの高く木をあげて 作つた家は誰の家か」 と仰せられましたから、 |
答白。 志幾之 大縣主家。 |
答へて曰さく、 「志幾しきの 大縣主おほあがたぬしが家なり」 と白しき。 |
お伴の人が 「シキの村長の家でございます」 と申しました。 |
爾天皇詔者。 | ここに天皇詔りたまはく、 | そこで天皇が仰せになるには、 |
奴乎。 己家。 似天皇之 御舍而造。 |
「奴や、 おのが家を、 天皇おほきみの 御舍みあらかに似せて造れり」 とのりたまひて、 |
「あの奴やつは 自分の家を 天皇の 宮殿に似せて造つている」 と仰せられて、 |
即遣人。 | すなはち人を遣して、 | 人を遣わして |
令燒其家之時。 | その家を燒かしめたまふ時に、 | その家をお燒かせになります時に、 |
其大縣主懼畏。 | その大縣主、懼おぢ畏かしこみて、 | 村長が畏れ入つて |
稽首白。 | 稽首のみ白さく、 | 拜禮して申しますには、 |
奴有者。 | 「奴にあれば、 | 「奴のことでありますので、 |
隨奴不覺而。 | 奴ながら覺さとらずて、 | 分を知らずに |
過作。 | 過ち作れるが、 | 過つて作りました。 |
甚畏。 | いと畏きこと」とまをしき。 | 畏れ入りました」と申しました。 |
白犬献上 |
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故獻 能美之御幣物。 〈能美二字以音〉 |
かれ 稽首のみの 御幣物ゐやじりを獻る。 |
そこで 獻上物を致しました。 |
布縶白犬。 |
白き犬に 布を縶かけて、 |
白い犬に 布を縶かけて |
著鈴而。 | 鈴を著けて、 | 鈴をつけて、 |
己族 名謂腰佩人。 |
おのが族やから、 名は腰佩こしはきといふ人に、 |
一族の コシハキという人に |
令取犬繩 以獻上。 |
犬の繩つなを取らしめて 獻上りき。 |
犬の繩を取らせて 獻上しました。 |
故令止 其著火。 |
かれその火著くることを 止めたまひき。 |
依つてその火をつけることを おやめなさいました。 |
ここでの「堅魚」は、しゃちほこ。魚虎(鯱・しゃち・しゃちほこ)に掛け、殿上(天井)を虎(とらん)とするのではなく、服従・忠実のシンボルの犬を献上した。白は降伏の色。家を燃やす燃やさないは、しゃちほこがあると家が焼けないという縁起を否定する行為。
この点武田注釈は、「屋根の上に堅魚のような形の木を載せて作つた家。大きな屋根の家。カツヲは、堅魚木の意。屋根の頂上に何本も横に載せて、葺草を押える材。」とする。「堅魚のような形の木」としつつ「葺草を押える材」として、しゃちほことは解していない。しゃちほこは装飾品で木材のことではないし、この武田解釈では、家を燃やそうとしたこと、白い犬を献上したことの関連も取れない。無関係の事象と見る。これが意味がわかってないということ。
現代にも通じる一般的な用法を無視する解釈は大抵無理があり、かつ文脈を捉えていない。 この「堅魚」ような特有の文言ほど、一連の文脈から離れて存在することは絶対ない。しゃちほこの虎が天をとるに掛かるは、その象徴の秀吉・名古屋城でも言えるように何も無理はない。きつつなれにしつましあれば、褄で萎れとかいう珍奇な当ての通説より実質的な根拠がある。