原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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夏草の歌 |
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其衣通王。 | その衣通そとほしの王、 | その時に衣通しの王が |
獻歌。 | 歌獻りき。 | 歌を獻りました。 |
其歌曰。 | その歌、 | その歌は、 |
那都久佐能 | 夏草の | 夏の草は萎なえます。 |
阿比泥能波麻能 | あひねの濱の | そのあいねの濱の |
加岐加比爾 | 蠣貝かきかひに | 蠣かきの貝殼に |
阿斯布麻須那 | 足踏ますな。 | 足をお蹈みなさいますな。 |
阿加斯弖杼富禮 | 明あかしてとほれ。 | 夜が明けてからいらつしやい。 |
山多豆の歌(被参照:万葉2/90) |
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故後亦 不堪戀慕而。 |
かれ後にまた 戀慕しのひに堪へかねて、 |
後に 戀しさに堪えかねて |
追往時。 | 追ひいでましし時、 | 追つておいでになつて |
歌曰。 | 歌ひたまひしく、 | お歌いになりました歌、 |
岐美賀由岐。 | 君が行き | おいで遊ばしてから |
氣那賀久那理奴。 | け長くなりぬ。 | 日數が多くなりました。 |
夜麻多豆能。 | 山たづの | ニワトコの木のように、 |
牟加閇袁由加牟。 | 迎むかへを行かむ。 | お迎えに參りましよう。 |
麻都爾波麻多士。 | 待つには待たじ。 | お待ちしてはおりますまい。 |
〈此云山多豆者。 | (ここに山たづといへるは、 | |
是今造木者也〉 | 今の造木なり) |
夏草の歌のカキ貝(加岐加比)とは、軽太子が伊予の温泉に流さたことを受けて、瀬戸内のミルキーな貝と掛け、湯女・遊女の象徴表現と解く。
男女関係の文脈で夏草(しげった草)は下の毛の暗語というのは鉄板の用法、貝はアワビ・濱に掛けるハマグリなどの形容のクリとびらびらのこと。夏草は貝とあいまってその文脈を固めるための詞。
貝合わせが、古来女性間で流行った遊びというのも、表面的にはカルタ的遊戯を装った当然の暗語と見る(ねえ貝合わせしようと言いやすく、絶対にそういうことを認められない頭の固い人を煙に巻いておける)。貝合わせは、現代でも男のカブト合わせと対をなす女子同士の遊戯。もちろん物理的な貝や兜ではなく、発生学的に同じものの例え。つまり栗と栗鼠(リス)と亀の頭のことである。
左に古事記:右に万葉で対照してみると、古事記は意図的な表音表記ということがわかる。歌で夜麻多豆、注では山多豆とするところもその表れ。…豆? 表面的には造り木だというが(この趣旨は上述)、夜麻多豆=よる・あさ・多い・豆。なにのことだろうか。女子は布団派が多分多い。リラックスできるのとバレない。激しい共寝の歌で二人の物語が始まるのだから、この方向の一人寝の解釈には十分根拠がある。一人寝や愛の歌は柿本人麻呂の象徴的歌風とされ、万葉冒頭は人麻呂が支配する巻。人麻呂は安万侶の歌名。万侶集で万葉集。両者の内実は同一という根拠しかない。
古事記 :万票2巻90
岐美賀由岐 :君之行
氣那賀久那理奴:氣長久成奴
夜麻多豆能 :山多豆乃
牟加閇袁由加牟:迎乎将徃
麻都爾波麻多士:待尓者不待