原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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爾天皇。 | ここに天皇、 | しかるに天皇、 |
聞看。 吉備 海部直之女。 名黑日賣。 其容姿端正。 |
吉備きびの 海部あまべの直あたへが女、 名は黒日賣くろひめ それ容姿端正かほよしと 聞こしめして、 |
吉備きびの 海部あまべの直あたえの女、 黒姫くろひめという者が 美しいと お聞き遊ばされて、 |
喚上而使也。 | 喚上めさげて使ひたまひき。 | 喚めし上げてお使いなさいました。 |
然畏其大后之嫉。 |
然れども その大后の嫉みますを畏かしこみて、 |
しかしながら 皇后樣のお妬みになるのを畏れて |
逃下本國。 | 本つ國に逃げ下りき。 | 本國に逃げ下りました。 |
天皇坐高臺。 | 天皇、高臺どのにいまして、 | 天皇は高殿においで遊ばされて、 |
望瞻 其黑日賣之。 船出浮海以。 |
その黒日賣の 船出するを 望み見て |
黒姫の 船出するのを 御覽になつて、 |
歌曰。 | 歌よみしたまひしく、 | お歌い遊ばされた御歌、 |
くろざやの歌 |
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淤岐幣邇波 | 沖方へには | 沖おきの方ほうには |
袁夫泥都羅羅玖 | 小舟つららく。 | 小舟おぶねが續いている。 |
久漏邪夜能 | くろざやの | |
摩佐豆古和藝毛 | まさづこ吾妹わぎも、 | あれは愛いとしのあの子こが |
玖邇幣玖陀良須 | 國へ下らす。 | 國へ歸るのだ。 |
故大后。 | かれ大后 | 皇后樣は |
聞是之御歌。 | この御歌を聞かして、 | この歌をお聞きになつて |
大忿。 | いたく忿りまして、 | 非常にお怒りになつて、 |
遣人於大浦。 | 大浦に人を遣して、 | 船出の場所に人を遣つて、 |
追下而。 | 追ひ下して、 | 船から黒姫を追い下して |
自歩追去。 | 歩かちより追やらひたまひき。 | 歩かせて追いはらいました。 |