原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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故爾鳴女。 | かれここに鳴女なきめ、 | そこでキジの鳴女なきめが |
自天降到。 | 天より降おり到りて、 | 天から降つて來て、 |
居天若日子之門 湯津楓上而。 |
天若日子が門なる 湯津桂ゆつかつらの上に居て、 |
天若日子の門にある 貴い桂かつらの木の上にいて |
言委曲如 天神之詔命。 |
委曲まつぶさに 天つ神の詔命おほみことのごと言ひき。 |
詳しく 天の神の仰せの通りに言いました。 |
爾天佐具賣。 〈此三字以音〉 |
ここに 天あめの佐具賣さぐめ、 |
ここに 天の探女さぐめという女がいて、 |
聞此鳥言而。 | この鳥の言ふことを聞きて、 | このキジの言うことを聞いて |
語天若日子言。 | 天若日子に語りて、 | 天若日子に |
此鳥者。 | 「この鳥は | 「この鳥は |
其鳴音甚惡。 | その鳴く音こゑいと惡し。 | 鳴く聲がよくありませんから |
故可射殺云進。 |
かれみづから射たまへ」 といひ進めければ、 |
射殺しておしまいなさい」 と勸めましたから、 |
即天若日子。 | 天若日子、 | 天若日子は |
持 天神所賜 天之波士弓。 天之加久矢。 |
天つ神の賜へる 天の波士弓はじゆみ 天の加久矢かくやを もちて、 |
天の神の下さつた りつぱな弓矢を もつて |
射殺 其雉。 |
その雉子きぎしを 射殺しつ。 |
そのキジを 射殺しました。 |
爾其矢。 | ここにその矢 | ところがその矢が |
自雉胸通而。 | 雉子の胸より通りて | キジの胸から通りぬけて |
逆射上。 | 逆さかさまに射上げて、 | 逆樣に射上げられて |
逮坐天安河之河原。 | 天の安の河の河原にまします | 天のヤスの河の河原においでになる |
天照大御神。 | 天照らす大御神 | 天照らす大神 |
高木神之 御所。 |
高木たかぎの神の 御所みもとに逮いたりき。 |
高木たかぎの神の 御許おんもとに到りました。 |
是高木神者。 | この高木の神は、 | この高木の神というのは |
高御產巢日神之 別名。 |
高御産巣日の神の 別またの名みななり。 |
タカミムスビの神の 別の名です。 |
天佐具賣(あめのさぐめ、天佐具売。 探女表記は古事記にはない)は、天から遣わされた天若日子の使い(そばめ)。
その意味で天がついている。
天の逆手(サカテ)やサルメ(猿女)とも掛かる。サルメは地上人。
そばで補佐し具えるの意味で佐具女。
探女とするのは違う。探る行為はサグメは何もしていないし、雉は門の木にとまって鳴いただけ。
加えて、めに売を当てて売女(明らかに続けている哭女=雇われて泣く女)。
ここでは、金で仕えているという意味。
これを天邪鬼の原型という説がある。
しかし天邪鬼どはどのような意味で、それがここでのサグメにどのように言えるのか、その説明は全くない。したがって説のレベルですらない。
この事例を古事記を何も知らない人に見せて、これを天邪鬼のケースという人はまずいないだろう。
それを言っているというのは、誰かエライのが何やら言い出し、それに考えなく追従している。
まさにここでのサグメそのもの。ブーメラン。
そういう人達は鳥が何か話していて、これは天からのお告げだから聞いて下さいと言えるのか。
なぜホイホイ弓した天若日子が天邪鬼ではないのか。サグメは自分の主を守っている。
どうみても邪は天若日子。だから続く還矢の段で「或有邪心者。天若日子」としているし、それで矢が的中している。サグメに当たったのではない。
つまりサグメはその意志の主体ではない。それを表わす意味でも佐具売。
今こそ、耐え難きを耐えさせた統治を継承した責任を、日頃天を冠し享受してきた特権相応の責任を果たして下さいと箴言できる人はいますか?
いませんね。