原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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故爾(詔) 天津日子番能 邇邇藝命(而)。 |
かれここに 天の日子番の 邇邇藝の命、 |
そこで アマツヒコホノ ニニギの命に仰せになつて、 |
離天之石位。 | 天の石位いはくらを離れ、 | 天上の御座を離れ、 |
押分 天之八重多那 〈此二字以音〉 雲而。 |
天の八重多那雲 やへたなぐも を押し分けて、 |
八重やえ立つ雲を 押し分けて |
伊都能知 和岐知 和岐弖。 〈自伊以下 十字以音〉 |
稜威いつの道ち 別き道 別きて、 |
勢いよく 道を押し分け、 |
於天浮橋。 | 天の浮橋に、 | 天からの階段によつて、 |
宇岐士摩理。 | 浮きじまり、 |
下の世界に 浮洲うきすがあり、 |
蘇理 多多斯弖。 〈自宇以下 十一字亦以音〉 |
そり たたして、 |
それに お立たちになつて、 |
天降坐于 竺紫日向之。 高千穗之 久士布流多氣。 〈自久以下 六字以音〉 |
竺紫つくしの 日向ひむかの 高千穗の 靈くじふる峰たけに 天降あもりましき。 |
遂ついに筑紫つくしの 東方とうほうなる 高千穗たかちほの 尊い峰に お降くだり申さしめました。 |
故爾天忍日命。 |
かれここに 天の忍日おしひの命 |
ここに アメノオシヒの命と |
天津久米命。 | 天あまつ久米くめの命 | アマツクメの命と |
二人。 | 二人ふたり、 | 二人が |
取負 天之石靫。 |
天の石靫いはゆきを 取り負ひ、 |
石の靫ゆきを負い、 |
取佩 頭椎之大刀。 |
頭椎くぶつちの 大刀を取り佩き、 |
頭あたまが瘤こぶになつている 大刀たちを佩はいて、 |
取持 天之波士弓。 |
天の波士弓はじゆみ を取り持ち、 |
強い弓を持ち |
手挾 天之眞鹿兒矢。 |
天の眞鹿兒矢まかごや を手挾たばさみ、 |
立派な矢を挾んで、 |
立御前而 仕奉。 |
御前みさきに立ちて 仕へまつりき。 |
御前みまえに立つて お仕え申しました。 |
故其天忍日命。 〈此者。 大伴連等之祖〉 |
かれその天の忍日の命、 こは大伴おほともの 連むらじ等が祖。 |
このアメノオシヒの命は 大伴おおともの 連等むらじらの祖先、 |
天津久米命。 〈此者 久米直等之祖也〉 |
天つ久米の命、 こは久米の直等が祖なり。 |
アマツクメの命は 久米くめの直等あたえらの 祖先であります。 |
於是詔之。 | ここに詔りたまはく、 | ここに仰せになるには |
此地者向韓國。 | 「此地ここは韓國に向ひ | 「この處は海外に向つて、 |
眞來通 笠紗之御前而。 |
笠紗かささの御前みさきに ま來通りて、 |
カササの御埼みさきに 行ゆき通つて、 |
朝日之直刺國。 | 朝日の直ただ刺さす國、 | 朝日の照り輝かがやく國、 |
夕日之日照國也。 | 夕日の日照ひでる國なり。 | 夕日の輝かがやく國である。 |
故此地 甚吉地。 |
かれ此地ここぞ いと吉き地ところ」 |
此處こそは たいへん吉い處ところである」 |
詔而。 | と詔りたまひて、 | と仰せられて、 |
於底津石根。 | 底つ石根に | 地の下したの石根いわねに |
宮柱布斗斯理。 | 宮柱太しり、 | 宮柱を壯大そうだいに立て、 |
於高天原。 | 高天の原に | 天上に |
氷椽多迦斯理 而坐也。 |
氷椽ひぎ高しりて ましましき。 |
千木ちぎを高く上げて 宮殿を御造營遊ばされました。 |
一般にこの辺りの内容が「天孫降臨」とされるが、古事記には、天孫とも降臨とも表記されていない。
ニニギはあくまで先行の天菩比神、天若日子が地上を治めるべく天降り(受肉)し、地上に飲まれて帰ってこなかった、それを果たさせるための存在。
だから日子の名を冠している。三回目の意味で天孫というなら、天菩比神が至高の天の象徴かというとそんなことは全くない。
特別に扱われるのは、恐らく三種の神器があるからだろう。
しかしその神器は、地の価値観に飲み込まれない(地上の野蛮な権力者に媚附、おもねらない)お守りであり、地上統治の権威付けにあるのではない。真逆。
天若日子には天の波波矢(破魔矢≒天照の象徴)をもたせたが、あっけなく飲まれたので三倍にしている。
天降の道中(産まれる途中=受肉する時)、サルタヒコが出てきているのは、地上の野蛮さに自覚的になって克服せよということ。
サルタに面勝とはそういう意味。