原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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故於是 速須佐之男命 言。 |
かれここに 速須佐の男の命、 言まをしたまはく、 |
そこで スサノヲの命が 仰せになるには、 |
然者。 | 「然らば | 「それなら |
請 天照大御神 將罷。 |
天照らす大御神に まをして 罷りなむ」と言まをして、 |
天照らす大神おおみかみに 申しあげて 黄泉よみの國に行きましよう」 |
乃參上天時。 | 天にまゐ上りたまふ時に、 |
と仰せられて 天にお上りになる時に、 |
山川悉動。 | 山川悉に動とよみ | 山や川が悉く鳴り騷ぎ |
國土皆震。 | 國土皆震ゆりき。 | 國土が皆振動しました。 |
爾 天照大御神 聞驚而。 |
ここに 天照らす大御神 聞き驚かして、 |
それですから 天照らす大神が 驚かれて、 |
詔 | 詔りたまはく、 | |
我那勢命之 上來由者。 |
「我が汝兄なせの命の 上り來ます由ゆゑは、 |
「わたしの弟おとうとが 天に上つて來られるわけは |
必不善心。 |
かならず 善うるはしき心ならじ。 |
立派な心で來るのでは ありますまい。 |
欲奪 我國耳。 |
我が國を奪はむと おもほさくのみ」 と詔りたまひて、 |
わたしの國を奪おうと 思つておられるのかも知れない」 と仰せられて、 |
即解御髮。 |
すなはち 御髮みかみを解きて、 |
髮をお解きになり、 |
纏 御美豆羅而。 |
御髻みみづらに 纏かして、 |
左右に分けて 耳のところに輪に お纏まきになり、 |
乃於左右 御美豆羅亦 |
左右の御髻にも、 |
その左右の 髮の輪にも、 |
於御鬘亦。 | 御鬘かづらにも、 |
頭に戴かれる 鬘かずらにも、 |
於左右御手。 | 左右の御手にも、 | 左右の御手にも、 |
各纒持 八尺 勾璁之 五百津之 美須麻流之珠 而。 |
みな 八尺やさかの 勾璁まがたまの 五百津いほつの 御統みすまるの珠を 纏き持たして、 |
皆 大きな 勾玉まがたまの 澤山ついている 玉の緒を 纏まき持たれて、 |
〈自美至流四字 以音下效此〉 |
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曾毘良邇者 負千入之靫。 |
背そびらには 千入ちのりの 靫ゆきを負ひ、 |
背せには 矢が千本も入る 靱ゆぎを負われ、 |
〈訓入云能理。下效此。 自曾至邇者。以音〉 |
||
附 五百入之 靫。 |
平ひらには 五百入いほのりの 靫ゆきを附け、 |
胸にも 五百本入りの 靱をつけ、 |
亦臂 佩 伊都〈此二字以音〉之 竹鞆而。 |
また臂ただむきには 稜威いづの 高鞆たかともを 取り佩ばして、 |
また 威勢のよい 音を立てる鞆ともを お帶びになり、 |
弓腹 振立而。 |
弓腹ゆばら 振り立てて、 |
弓を 振り立てて力強く |
堅庭者。 | 堅庭は | 大庭を |
於向股 蹈那豆美。 〈三字以音〉 |
向股むかももに 蹈みなづみ、 |
お踏みつけになり、 |
如沫雪 蹶散而。 |
沫雪なす 蹶くゑ散はららかして、 |
泡雪あわゆきのように 大地を蹴散らかして |
伊都〈二字以音〉之 男建〈訓建云多祁夫〉 |
稜威の 男建をたけび、 |
勢いよく 叫びの |
蹈建而。 | 蹈み建たけびて、 | 聲をお擧げになつて |
待問。 | 待ち問ひたまひしく、 | 待ち問われるのには、 |
何故 上來。 |
「何とかも 上り來ませる」 と問ひたまひき。 |
「どういうわけで 上のぼつて來こられたか」 とお尋ねになりました。 |
爾。 速須佐之男命 答白。 |
ここに 速須佐の男の命 答へ白したまはく、 |
そこで スサノヲの命の 申されるには、 |
僕者 無邪心。 |
「僕あは 邪きたなき心無し。 |
「わたくしは 穢きたない心はございません。 |
唯大御神之命以。 | ただ大御神の命もちて、 | ただ父上の仰せで |
問賜 僕之哭 伊佐知流之事故。 |
僕が哭き いさちる事を 問ひたまひければ、 |
わたくしが哭き わめいていることを お尋ねになりましたから、 |
白都良久。 〈三字以音〉 |
白しつらく、 | |
僕欲 往妣國以哭。 |
僕は 妣ははの國に往いなむとおもひて 哭くとまをししかば、 |
わたくしは 母上の國に行きたいと思つて 泣いております と申しましたところ、 |
爾大御神詔 汝者。 |
ここに大御神 汝みましは |
父上は |
不可在 此國而。 |
この國にな住とどまりそ と詔りたまひて、 |
それではこの國に住んではならない と仰せられて |
神夜良比 夜良比 賜故。 |
神逐かむやらひ 逐ひ賜ふ。 |
追い拂いましたので |
以爲請 將罷往之状。 |
かれ罷りなむとする状さまを まをさむとおもひて |
お暇乞いに |
參上耳。 | 參ゐ上りつらくのみ。 | 參りました。 |
無異心。 |
異けしき心無し」 とまをしたまひき。 |
變つた心は 持つておりません」 と申されました。 |