原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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爾速須佐之男命。 | ここに速須佐の男の命、 | そこでスサノヲの命は、 |
白于天照大御神。 | 天照らす大御神に白したまひしく、 | 天照らす大神に申されるには |
我心清明。 | 「我が心清明あかければ | 「わたくしの心が清らかだつたので、 |
故我所生子。 | 我が生める子 | わたくしの生うんだ子が |
得手弱女。 | 手弱女たわやめを得つ。 | 女だつたのです。 |
因此言者。 | これに因りて言はば、 | これに依よつて言えば |
自我勝云而 於勝佐備 〈此二字以音〉 |
おのづから我勝ちぬ」といひて、 勝さびに |
當然わたくしが勝つたのです」といつて、 勝つた勢いに任せて 亂暴を働きました。 |
離天照大御神之 營田之阿 〈此阿字以音〉埋其溝。 |
天照らす大御神の 營田みつくたの畔あ離ち、 その溝埋うみ、 |
天照らす大神が田を作つておられた その田の畔あぜを毀こわしたり 溝みぞを埋うめたりし、 |
亦其於聞看 大嘗之殿。 |
またその 大嘗にへ聞しめす殿に |
また 食事をなさる御殿に |
屎麻理〈此二字以音〉散。 | 屎くそまり散らしき。 | 屎くそをし散らしました。 |
故。雖然爲。 | かれ然すれども、 |
このようなことを なさいましたけれども |
天照大御神者。 | 天照らす大御神は | 天照らす大神は |
登賀米受 而告。 |
咎めずて 告りたまはく、 |
お咎とがめにならないで、 仰せになるには、 |
如屎。 | 「屎くそなすは | 「屎くそのようなのは |
醉而 吐散登許曾。 〈此三字以音〉 |
醉ゑひて 吐き散らすとこそ |
酒に醉つて 吐はき散ちらすとて |
我那勢之命 爲如此。 |
我が汝兄なせの命 かくしつれ。 |
こんなになつたのでしよう。 |
又 離田之阿埋溝者。 |
また 田の畔あ離ち溝埋うむは、 |
それから 田の畔を毀し溝を埋めたのは |
地矣阿多良斯登許曾。 〈自阿以下七字以音〉 |
地ところを惜あたらしとこそ | 地面を惜しまれて |
我那勢之命爲如此登。 〈此一字以音〉 |
我が汝兄なせの命かくしつれ」 | このようになされたのです」 |
詔雖直。 | と詔り直したまへども、 | と善いようにと仰せられましたけれども、 |
猶其惡態 不止而轉。 |
なほその惡あらぶる態わざ 止まずてうたてあり。 |
その亂暴なしわざは 止やみませんでした。 |