| 原文 |
書き下し （武田祐吉） |
現代語訳 （武田祐吉） |
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| 故大國主神。 | かれ大國主の神、 | そこで大國主の命が |
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坐、出雲之御大之 御前時。 |
出雲の御大みほの 御前みさきにいます時に、 |
出雲いずもの御大みほの 御埼みさきにおいでになつた時に、 |
| 自波穗。 | 波の穗より、 | 波なみの上うえを |
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乘 天之羅摩船而。 |
天の羅摩かがみの船に 乘りて、 |
蔓芋つるいものさやを割わつて 船にして |
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内剥 鵝皮剥。 |
鵝ひむしの皮を 内剥うつはぎに剥ぎて |
蛾がの皮を そつくり剥はいで |
| 爲衣服。 | 衣服みけしにして、 | 著物きものにして |
| 有歸來神。 | 歸より來る神あり。 | 寄よつて來る神樣があります。 |
| 爾雖問其名。 | ここにその名を問はせども | その名を聞きましたけれども |
| 不答。 | 答へず、 | 答えません。 |
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且雖問 所從之諸神。 |
また所從みともの神たちに 問はせども、 |
また御從者おともの神たちに お尋ねになつたけれども |
| 皆白不知。 | みな知らずと白まをしき。 | 皆知りませんでした。 |
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爾多邇具久白言。 〈自多下四字以音〉 |
ここに多邇具久 たにぐく白して言まをさく、 |
ところが ひきがえるが言いうことには、 |
| 此者久延毘古必知之。 |
「こは久延毘古 くえびこぞかならず知りたらむ」 と白ししかば、 |
「これは クエ彦がきつと知つているでしよう」 と申しましたから、 |
| 即召久延毘古。 | すなはち久延毘古を召して | そのクエ彦を呼んで |
| 問時。 | 問ひたまふ時に答へて白さく、 | お尋ねになると、 |
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答白 此者神產巢日神之御子。 |
「こは 神産巣日かむむすびの神の御子 |
「これは カムムスビの神の御子みこで |
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少名毘古那神。 〈自毘下三字以音〉 |
少名毘古那 すくなびこなの神なり」と白しき。 |
スクナビコナの神です」と申しました。 |
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故爾 白上於 神產巢日 御祖命者。 |
かれここに 神産巣日 御祖みおやの命に 白し上げしかば、 |
依つて カムムスビの神に 申し上げたところ、 |
| 答告。 | ||
| 此者實我子也。 | 「こは實まことに我が子なり。 | 「ほんとにわたしの子だ。 |
| 於子之中。 | 子の中に、 | 子どもの中でも |
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自我手俣 久岐斯子也。 〈自久下三字以音〉 |
我が手俣たなまたより 漏くきし子なり。 |
わたしの手の股またから こぼれて落ちた子どもです。 |
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故與汝 葦原色許男命。 |
かれ汝いまし葦原色許男 あしはらしこをの命と |
あなたアシハラシコヲの命と |
| 爲兄弟而。 | 兄弟はらからとなりて、 | 兄弟となつて |
| 作堅其國。 |
その國作り堅めよ」 とのりたまひき。 |
この國を作り堅めなさい」 と仰せられました。 |
| 故自爾。 | かれそれより、 | それでそれから |
| 大穴牟遲。 | 大穴牟遲と | 大國主と |
| 與少名毘古那。 | 少名毘古那と | スクナビコナと |
| 二柱神相並。 | 二柱の神相並びて、 | お二人が竝んで |
| 作堅此國。 | この國作り堅めたまひき。 | この國を作り堅めたのです。 |
| 然後者。 | 然ありて後には、 | 後には |
| 其少名毘古那神者。 | その少名毘古那の神は、 | そのスクナビコナの神は、 |
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度于 常世國也。 |
常世とこよの國に 度りましき。 |
海のあちらへ 渡つて行つてしまいました。 |
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故顯白其 少名毘古那神。 |
かれその少名毘古那の神を 顯し白しし、 |
このスクナビコナの神のことを 申し上げた |
| 所謂久延毘古者。 | いはゆる久延毘古くえびこは、 | クエ彦というのは、 |
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於今者山田之 曾富騰者也。 |
今には山田の 曾富騰そほどといふものなり。 |
今いう山田の 案山子かかしのことです。 |
| 此神者。 | この神は、 | この神は |
| 足雖不行。 | 足はあるかねども、 | 足は歩あるきませんが、 |
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盡知 天下之事神也。 |
天の下の事を 盡ことごとに知れる神なり。 |
天下のことを すつかり知つている神樣です。 |