原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
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於是其妻 須世理毘賣者。 |
ここにその妻みめ 須世理毘賣すせりびめは、 |
かくてお妃きさきの スセリ姫ひめは |
持喪具而。 | 喪はふりつ具ものを持ちて | 葬式の道具を持つて |
哭來。 | 哭きつつ來まし、 | 泣きながらおいでになり、 |
其父大神者。 | その父の大神は、 | その父の大神は |
思已死訖。 | すでに死うせぬと思ほして、 | もう死んだとお思いになつて |
出立其野。 | その野に出でたたしき。 | その野においでになると、 |
爾持其矢以 奉之時。 |
ここにその矢を持ちて 奉りし時に、 |
大國主の命はその矢を持つて 奉りましたので、 |
率入家而。 | 家に率て入りて、 | 家に連れて行つて |
喚入八田間大室而。 | 八田間やたまの大室に喚び入れて、 | 大きな室に呼び入れて、 |
令取 其頭之虱。 |
その頭かしらの虱しらみを 取らしめたまひき。 |
頭の虱しらみを 取らせました。 |
故爾見其頭者。 | かれその頭を見れば、 | そこでその頭を見ると |
呉公多在。 | 呉公むかで多さはにあり。 | 呉公むかでがいつぱいおります。 |
於是其妻。 | ここにその妻、 | この時にお妃が |
以牟久木實與 赤土。 |
椋むくの木の實と 赤土はにとを取りて、 |
椋むくの木の實と 赤土とを |
授其夫。 | その夫に授けつ。 | 夫君に與えましたから、 |
故咋破其木實。 | かれその木の實を咋ひ破り、 | その木の實を咋くい破やぶり |
含赤土。 | 赤土はにを含ふくみて | 赤土を口に含んで |
唾出者。 | 唾つばき出だしたまへば、 | 吐き出されると、 |
其大神。 | その大神、 | その大神は |
以爲咋破呉公。 | 呉公むかでを咋ひ破りて | 呉公を咋くい破つて |
唾出而。 | 唾き出だすとおもほして、 | 吐き出すとお思いになつて、 |
於心思愛 而寢。 |
心に愛はしとおもほして 寢みねしたまひき。 |
御心に感心にお思いになつて 寢ておしまいになりました。 |
ここで突然スセリ姫が妻になっているが、これはもとより一心同体という意味。
スサノオ内部にある女性性がスセリ。そして大国主はスサノオの分身(根の国参照)。その身内の問題を知るために天照(御祖命)に言われ来たのである。
続く段で、多くの武器で大勢の神を追い伏せ、娘を妻に迎え、大国の主となれといっているのは、女性的優しさとともにあれ、というスサノオなりの発言。
ただ、神を追い伏せというのは違う。原因はそちらにはなく、子どものような危うさがそうさせる。
武力に頼り、それを誇る精神的子どもが主になったら、その国自体が災いの種になる。そしてそれが自分達のことだとは思わない。だからそうなり続ける。