原文 |
書き下し (武田祐吉) |
現代語訳 (武田祐吉) |
---|---|---|
是以 伊邪那伎 大神詔。 |
ここを以ちて 伊耶那岐の 大神の詔りたまひしく、 |
イザナギの命は 黄泉よみの國から お還りになつて、 |
吾者到於 伊那志許米〈上〉 志許米岐 〈此九字以音〉 穢國 而在祁理。 〈此二字以音〉 |
「吾あは いな醜しこめ 醜めき 穢きたなき國に 到りてありけり。 |
「わたしは 隨分 厭いやな 穢きたない國 に行つたことだつた。 |
故吾者 爲 御身之 禊而。 |
かれ吾は 御身おほみまの 禊はらへせむ」 とのりたまひて、 |
わたしは 禊みそぎを しようと思う」 と仰せられて、 |
到坐 竺紫日向之 橘小門之 阿波岐 〈此三字以音〉 原而。 |
竺紫つくしの 日向ひむかの 橘の 小門をどの 阿波岐あはぎ原に 到りまして、 |
筑紫つくしの 日向ひむかの 橘たちばなの 小門おどの アハギ原はらに おいでになつて |
禊祓也。 |
禊みそぎ祓はらへ たまひき。 |
禊みそぎを なさいました。 |
故於投棄 御杖所 成神名。 |
かれ 投げ棄うつる 御杖に成りませる 神の名は、 |
その 投げ棄てる杖によつて あらわれた神は |
衝立 船戶神。 |
衝つき立たつ 船戸ふなどの神。 |
衝つき立たつ フナドの神、 |
次於投棄 御帶所 成神名。 |
次に投げ棄つる 御帶に 成りませる神の名は、 |
投げ棄てる 帶で あらわれた神は |
道之 長乳齒神。 |
道みちの 長乳齒ながちはの神。 |
道の ナガチハの神、 |
次於投棄 御裳所 成神名。 |
次に投げ棄つる 御嚢みふくろに 成りませる神の名は、 |
投げ棄てる 袋で あらわれた神は |
時置師神。 | 時量師ときはかしの神。 | トキハカシの神、 |
次於投棄 御衣所 成神名。 |
次に投げ棄つる 御衣けしに 成りませる神の名は、 |
投げ棄てる 衣ころもで あらわれた神は |
和豆良比能 宇斯能神。 〈此神名以音〉 |
煩累わづらひの 大人うしの神。 |
煩累わずらいの 大人うしの神、 |
次於投棄 御褌所 成神名。 |
次に投げ棄つる 御褌はかまに 成りませる神の名は、 |
投げ棄てる 褌はかまで あらわれた神は |
道俣神。 | 道俣ちまたの神。 | チマタの神、 |
次於投棄 御冠所 成神名。 |
次に投げ棄つる 御冠みかがふりに 成りませる神の名は、 |
投げ棄てる 冠で あらわれた神は |
飽咋之 宇斯能神。 〈自宇以下 三字以音〉 |
飽咋あきぐひの 大人うしの神。 |
アキグヒの 大人の神、 |
次於投棄 | 次に投げ棄つる | 投げ棄てる |
左御手之 手纒所 成神名。 |
左の御手の 手纏たまきに 成りませる神の名は、 |
左の手につけた 腕卷で あらわれた神は |
奧疎神。 〈訓奧云於伎。 下效此。 訓疎云奢加留。 下效此〉 |
奧疎 おきざかるの神。 |
オキザカルの神と |
次 奧津那藝佐毘古神。 〈自那以下 五字以音 下效此〉 |
次に 奧津那藝佐毘古 おきつなぎさびこの神。 |
オキツナギサビコの神と |
次 奧津甲斐辨羅神。 〈自甲以下 四字以音 下效此〉 |
次に 奧津甲斐辨羅 かひべらの神。 |
オキツカヒベラの神、 |
次於投棄 | 次に投げ棄つる | 投げ棄てる |
右御手之 手纒所 成神名。 |
右の御手の 手纏に 成りませる神の名は、 |
右の手につけた 腕卷で あらわれた神は |
邊疎神。 | 邊疎へざかるの神。 | ヘザカルの神と |
次 邊津那藝佐毘古神。 |
次に 邊津那藝佐毘古 へつなぎさびこの神。 |
ヘツナギサビコの神と |
次 邊津甲斐辨羅神。 |
次に 邊津甲斐辨羅 へつかひべらの神。 |
ヘツカヒベラの神 とであります。 |
右件 | 右の件くだり、 | 以上 |
自船戶神以下。 | 船戸ふなどの神より下、 | フナドの神から |
邊津甲斐辨羅神 以前。 |
邊津甲斐辨羅の神 より前、 |
ヘツカヒベラの神 まで |
十二神者。 |
十二神 とをまりふたはしらは、 |
十二神は、 |
因脫 著身之物所 生神也。 |
身に著つけたる物を 脱ぎうてたまひしに因りて、 生なりませる神なり。 |
おからだにつけてあつた物を 投げ棄てられたので あらわれた神です。 |