平家物語

    平家物語
目次
和歌一覧

『平家物語』は鎌倉時代成立の作者未詳の軍記物語。平家の出自、平清盛による権力私物化にまつわる紛糾と源氏の蜂起対決、平家滅亡を描く。冒頭「祇園精舎の鐘の声」、木曾最期、敦盛最期、能登殿最期、那須与一、等のエピソードが有名。なお清盛は物語中盤の六巻で死亡。
 

 著者は鎌倉末期の徒然草226段に基づき考えられている。「後鳥羽院の御時(1183-1198)、信濃の前司行長、稽古のほまれありけるが、楽府の御論議の番に召されて…心うきことにして、学問を捨てて遁世したりけるを…この行長入道、平家物語を作りて、生仏といひける盲目に教へて語らせけり」。

 この「信濃の前司行長」が誰かは学説で議論されていて、「信濃」は下野の間違いで藤原行長と積極的に人定する説が有力で、定説化の様相を呈したとも評されるが、そういう認定はせず上記徒然226段の史実性も含めて平家物語研究で確かめていくべきとする説もあり(全注釈)、穏当な見解と思う。

 まとめると徒然草の兼好法師による「信濃の前司行長」作者説が通説的だが(この言及を無視する学説はまず存在しない)、そこから先は議論されている。

 

 伝本には大別して語り本系と読み本系があり、現代の代表的な本(新旧大系・全集・全注釈・集成)は全て語り本系。「従来は、琵琶法師によって広められた語り本系を読み物として見せるために加筆されていったと解釈されてきたが、近年は読み本系(ことに延慶本)の方が語り本系よりも古態を存するという見解の方が有力となってきて」いるという(Wikipedia平家物語)。
 


 
平家全文(語句検索用(約36万字。原稿900枚=文庫本3~4冊程度)。語り本系一方(いちかた)流=十三巻構成(12巻+灌頂巻)。その米沢本を底本とした全注釈を基本とし改めたもの。見出し分類は一方流代表の覚一本(かくいちぼん)を底本とした大系・全集に基本従い、全注釈の区分と表記を併記した。
 

和歌一覧(語り本系の和歌100首。今様連歌漢詩等異式含め106句。読み本系(延慶本、長門本)では160~250首)
 
 平家物語では神の文脈で「柿本人麻呂」と「山部赤人」に言及しつつ(両者は和歌三神とされる)、伊勢物語の東下りの和歌を海道下りと福原落で引用し、その2回とも「在原のなにがし」としている。この対比から、平家の作者は伊勢物語は重んじつつも、業平は重んじていない、つまり多数の認定を当然としない反骨心があり、和歌に独自の見解がある人物。東下りの2つの和歌は905年の古今集で業平のものと認定されることから通説は伊勢物語の「昔男」を業平とみなすが、伊勢物語は業平とは一度も表記せず、「在五」「在原なりける男」「右馬頭なりける翁」等の間接的蔑称を用い、かつ同じ人定を一度も用いず、在五の「けぢめ見せぬ心」を筆頭に非難し続けながら、物語最後まで主観の「昔男」は出現し続ける。つまり自分で伊勢物語を通して読める人なら、著者は在五こと業平を非難し続け、主人公で著者たる昔男ではありえず、古今の業平認定とその派生認定はその他の記録とも整合せず、貴族社会動機による集団的誤りと分かる。

 またその伊勢物語の唐衣を出した章で「延喜第四の皇子蝉丸」とあるところ、延喜=醍醐第四皇子は重明親王(906-954)とされていて、百人一首10の蝉丸とはされていない。蝉丸は猿丸と対で、柿本人麻呂別称の人丸同様、①卑官の②あだ名・通名と解すべきもの。平家説は①を満たさないが、それは天皇を「かの伊勢の斎宮なりける人の親」扱いする伊勢物語の著者が卑官とは思えなかったからだろう。しかし帝記たる古事記を記した著者も卑官であるし、平安時代最上位貴族皇族が通名にする類型的動機も類例もなく、むしろ卑官に代作させる例は万葉集一巻・伊勢物語1段・81段以来多く確認できる。

 

各巻目次
語り本系の章題と読み方(大系・全集)
第一  祇園精舎(ぎおんしょうじゃ)、殿上闇討(てんじょうのやみうち)、(すずき)、禿髪(かぶろ)、我身栄花(わがみのえいが)、祗王(ぎおう)、二代后(にだいのきさき)、額打論(がくうちろん)、清水炎上(きよみずえんじょう)、東宮立(とうぐうだち)、殿下乗合(てんがののりあい)、鹿谷(ししのたに)、俊寛沙汰 鵜川軍(しゅんかんのさた うかわのいくさ)、願立(がんだて)、御輿振(みこしぶり)、内裏炎上(だいりえんじょう)
第二  座主流(ざすながし)、一行阿闍梨之沙汰(いちぎょうあじゃりのさた)、西光被斬(さいこうがきられ)、小教訓(こぎょうくん)、少将乞請(しょうしょうこいうけ)、教訓状(きょうくんじょう)、烽火之沙汰(ほうかのさた)、大納言流罪(だいなごんるざい)、阿古屋之松(あこやのまつ)、大納言死去(だいなごんしきょ)、徳大寺之沙汰(とくだいじのさた)、山門滅亡 堂衆合戦(さんもんめつぼう どうしゅがっせん)、山門滅亡2善光寺炎上(ぜんこうじえんじょう)、康頼祝言(やすよりのっと)、卒都婆流(そとばながし)【柿本人麻呂と山部赤人】、蘇武(そぶ)
第三  赦文(ゆるしぶみ)、足摺(あしずり)、御産(ごさん)、公卿揃(くぎょうぞろえ)、大塔建立(だいとうこんりゅう)、頼豪(らいごう)、少将都帰(しょうしょうみやこがえり)、有王(ありおう)、僧都死去(そうずしきょ)、/辻風(つじかぜ)、医師問答(いしもんどう)、無文(むもん)、燈炉之沙汰(とうろうのさた)、金渡(かねわたし)、法印問答(ほういんもんどう)、大臣流罪(だいじんるざい)、行隆之沙汰(ゆきたかのさた)、法皇被流(ほうおうながされ)、城南之離宮(せいなんのりきゅう)
第四  厳島御幸(いつくしまごこう)、還御(かんぎょ)、源氏揃(げんじぞろえ)、鼬之沙汰(いたちのさた)、信連(のぶつら)、(きおう)、山門牒状(さんもんへのちょうじょう)、南都牒状(なんとちょうじょう)、永僉議(ながのせんぎ)、大衆揃(たいしゅぞろえ)、橋合戦(はしがっせん)、宮御最期(みやのごさいご)、若宮出家(わかみやしゅっけ)、通乗之沙汰(とうじょうのさた)、(ぬえ)、三井寺炎上(みついでらえんじょう)
第五  都遷(みやこうつり)、月見(つきみ)【待宵の小侍従】、物怪之沙汰(もつけのさた)、早馬(はやうま)、朝敵揃(ちょうてきぞろえ)、咸陽宮(かんようきゅう)、文覚荒行(もんがくのあらぎょう)、勧進帳(かんじんちょう)、文覚被流(もんがく(が)ながされ)、福原院宣(ふくはらいんぜん)、富士川(ふじがわ)、五節之沙汰(ごせつのさた)、都帰(みやこがえり)、奈良炎上(ならえんじょう)
第六  新院崩御(しんいん(の)ほうぎょ)、紅葉(こうよう)、葵前(あおいのまえ)、小督(こごう)、廻文(めぐらしぶみ)、飛脚到来(ひきゃくとうらい)、入道死去(にゅうどうしきょ)、築島(つきしま)、慈心房(じしんぼう)、祇園女御(ぎおんにょうご)、嗄声(しわがれごえ)、横田河原合戦(よこたがわらのかっせん)
第七  清水冠者(しみずのかんじゃ)、北国下向(ほっこくげこう)、竹生島詣(ちくぶしまもうで)、火打合戦(ひうちがっせん)、願書(がんしょ)、倶梨迦羅落(くりからおとし)、篠原合戦(しのはらかっせん)、実盛(さねもり)、玄肪(げんぼう)、木曾山門牒状(きそさんもんちょうじょう)、返牒(へんちょう)、平家山門連署(へいけさんもんへのれんじょ)、主上都落(しゅじょうのみやこおち)、維盛都落(これもりのみやこおち)、聖主臨幸(せいしゅりんこう)、忠度都落(ただのりのみやこおち)、経正都落(つねまさのみやこおち)、青山之沙汰(せいざんのさた)、一門都落(いちもんのみやこおち)、福原落(ふくはらおち)【はるばる来ぬ・都鳥
第八  山門御幸(さんもんごこう)、名虎(なとら)、緒環(おだまき)、太宰府落(だざいふおち)、征夷将軍院宣(せいいしょうぐんのいんせん)、猫間(ねこま)、水島合戦(みずしまかっせん)、瀬尾最期(せのおさいご)、室山(むろやま)、鼓判官(つづみほうがん)、法住寺合戦(ほうじゅうじかっせん)
第九  生ずきの沙汰(いけずきのさた)、宇治川先陣(うじがわのせんじん)、河原合戦(かわらかっせん)、木曾最期(きそのさいご)、樋口被討罰(ひぐちのちゅうばっせられ/ ひぐちのきられ)、六ヶ度軍(ろくかどのいくさ)、三草勢揃(みくさせいぞろえ)、三草合戦(みくさかっせん)、老馬(ろうば)、一二之懸(いちにのかけ)、二度之懸(にどのかけ)、坂落(さかおとし)、越中前司最期(えっちゅうのぜんじさいご)、忠度最期(ただのりさいご)、重衡生捕(しげひらいけどり)、敦盛最期(あつもり(の)さいご)、知章最期(ともあきらさいご)、落足(おちあし)、小宰相身投(こざいしょうみなげ)
第十  首渡(くびわたし)、内裏女房(だいり(の)にょうぼう)、八島院宣(やしまいんぜん)、請文(うけぶみ)、戒文(かいもん)、海道下(かいどうくだり)【蝉丸、唐衣きつつなれにし】、千手前(せんじゅのまえ)、横笛(よこぶえ)、高野巻(こうやのまき)、惟盛出家(これもりのしゅっけ)、熊野参詣(くまのさんけい)、惟盛入水(これもりのじゅすい)、三日平氏(みっかへいじ)、藤戸(ふじと)、大嘗会之沙汰(だいじょうえのさた)
第十一  逆櫓(さかろ)、勝浦 付 大坂越(かつうら つけたりおおさかごえ)、嗣信最期(つぎのぶさいご)、那須与一(なすのよいち)、弓流(ゆみながし)、志度合戦(しどかっせん)、鶏合 壇浦合戦(とりあわせ だんのうらがっせん)、遠矢(とおや)、先帝身投(せんていみなげ)、能登殿最期(のとどののさいご)、内侍所都入(ないしどころのみやこいり)、(けん)【草薙の剣、あまの村雲の剣】、一門大路渡(いちもんおおじわたし)、( かがみ)【天岩戸】、文之沙汰(ふみのさた)、副将被斬(ふくしょう(の)きられ)、腰越(こしごえ)、大臣殿被斬(おおいどのきられ)、重衡被斬(しげひらのきられ)
第十二  大地震(だいじしん)、紺掻之沙汰(こんかきのさた)、平大納言被流(へいだいなごんのながされ)、土佐房被斬(とさぼう(の)きられ)、判官都落(はんがんのみやこおち)、吉田大納言沙汰(よしだだいなごんのさた)、六代(ろくだい)、泊瀬六代(はせろくだい)、六代被斬(ろくだい(の)きられ)
灌頂巻  女院出家(にょいんしゅっけ)、大原入(おおはらいり)、大原御幸(おおはらごこう)、六道之沙汰(ろくどうのさた)、女院死去(にょいんしきょ)